はじめに:売上1000万円超えのフリーランスが次に考えるべき「法人化」という選択肢
フリーランスエンジニアとして順調にキャリアを重ね、気づけば売上が1000万円、所得が800万円を超えてきた。あなたは、このような嬉しい悲鳴を上げていませんか?
しかし、このステージに到達した多くのエンジニアが直面するのが、急増する税金と社会保険料の負担です。
「手取りが思ったより増えない…」
「このまま個人事業主を続けていて、本当に得なのだろうか?」
その解決策として浮上するのが「法人化(法人成り)」という選択肢です。
しかし、法人化はメリットばかりではありません。設立や維持にはコストと手間がかかり、一度法人化すると簡単には個人事業主に戻れません。タイミングを間違えると、かえって損をしてしまう可能性すらあります。
この記事では、売上と所得が増えてきたフリーランスエンジニアのために、以下の点を徹底的に解説します。
- 法人化を検討すべき具体的な3つのタイミング
- メリット・デメリットの全貌
- 【年収別】個人事業主 vs 法人の納税額シミュレーション
- 後悔しないために知っておくべき注意点
この記事を読めば、あなたにとって「法人化」が本当に最適な選択なのか、そしてそのタイミングはいつなのか、明確な判断基準を持つことができるようになります。
【結論】法人化を検討すべき3つのタイミング
専門家への相談を前提としつつも、一般的に法人化を検討すべき明確なタイミングは3つあります。
タイミング1:課税所得が800万円を超えたとき
最も重要な指標が課税所得(売上 – 経費 – 各種控除)です。個人の所得税は累進課税であり、所得が増えるほど税率が上がります。特に、課税所得が800万円を超えると、所得税と住民税を合わせた税率が33%から43%へと大きく跳ね上がります。
一方で、法人税の税率は(中小企業の場合)所得800万円以下の部分で約23.2%と、個人の税率よりも低く抑えられています。この税率の逆転現象が起こる「課税所得800万円」が、節税メリットを享受するための最初の大きな目安となります。
タイミング2:課税売上高が1000万円を超えたとき
2年前の課税売上高が1000万円を超えると、個人事業主は消費税の課税事業者となり、消費税の納税義務が発生します。しかし、このタイミングで法人化すると、新設法人は原則として設立から最大2年間、消費税の納税が免除されるという大きなメリットがあります。(※インボイス制度登録事業者になる場合など、例外あり)
10%の消費税負担は決して小さくないため、これは法人化を検討する強力な動機となります。
タイミング3:事業拡大・社会的信用が必要になったとき
- 大企業との取引: 企業によっては、与信管理の観点から法人でなければ契約しないケースがあります。
- 資金調達: 金融機関からの融資を受ける際、一般的に個人事業主よりも法人の方が有利です。
- 従業員の雇用: 従業員を雇用し、社会保険を完備するなど、事業を組織として拡大していくフェーズでは法人化が必須となります。
【徹底比較】法人化のメリット・デメリット
判断を誤らないために、メリットとデメリットの両方を正確に理解しておきましょう。
| 項目 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 税金 | 所得800万円超で大きな節税効果(法人税率の優位性)。役員報酬で給与所得控除が使える。経費にできる範囲が広がる(役員社宅、生命保険料など)。赤字の繰越期間が10年と長い。 | 赤字でも法人住民税(最低約7万円)が発生する。税務処理が複雑化し、税理士費用がかかる。 |
| 社会的信用 | 社会的信用が格段に向上し、大企業との取引や金融機関からの融資で有利になる。 | 特になし。 |
| 責任の範囲 | 有限責任となり、万が一事業が失敗しても、経営者の責任は出資額の範囲内に限定される。個人の資産は守られる。 | 個人事業主は無限責任であり、事業の負債は個人の全資産で返済義務を負う。 |
| コスト・手間 | 特になし。 | 設立費用(株式会社で約25万円〜)と維持コスト(税理士費用、社会保険料など)がかかる。設立・廃業の手続きが複雑。 |
| 社会保険 | 厚生年金・健康保険に加入できる。将来の年金受給額が増え、保障も手厚くなる。 | 社会保険への加入が義務となり、会社負担分の保険料が発生する。 |
| 柔軟性 | 決算月を自由に設定できる。 | 役員報酬は原則として期中に変更できず、資金繰りの柔軟性が低下する。 |
【年収別シミュレーション】個人事業主 vs 法人 納税額はいくら変わる?
では、実際に手取り額はどのくらい変わるのでしょうか?ここでは、売上から経費を引いた「所得」が800万円、1200万円、1800万円の3つのケースで、個人事業主と法人の税金・社会保険料の合計額をシミュレーションしてみましょう。
【前提条件】
– 個人事業主:青色申告、基礎控除・青色申告特別控除のみ考慮。
– 法人:役員報酬は所得の70%とし、残りを法人の利益とする。社会保険料は東京都の料率で計算。
– 税額は概算であり、実際の家族構成や控除額によって変動します。
| 所得 | 個人事業主(税金+国保・年金) | 法人(個人の税金+法人の税金+社会保険料) | 差額(法人が得する額) |
|---|---|---|---|
| 800万円 | 約235万円 | 約230万円 | 約5万円 |
| 1200万円 | 約390万円 | 約345万円 | 約45万円 |
| 1800万円 | 約680万円 | 約560万円 | 約120万円 |
【シミュレーションから分かること】
- 所得800万円の段階では、法人化のメリットはまだそれほど大きくありません。設立・維持コストを考えると、まだ個人事業主のままでも良いかもしれません。
- 所得1200万円になると、節税メリットが年間約45万円と明確に出てきます。このレベルに達したら、積極的に法人化を検討すべきです。
- 所得1800万円を超えると、節税効果は年間100万円以上となり、法人化しないことによる機会損失が非常に大きくなります。
法人化の前に知っておくべき注意点
シミュレーション結果だけを見て安易に法人化を決めると後悔する可能性があります。
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設立・維持にかかる具体的なコスト
- 設立費用: 株式会社の場合、定款認証や登記免許税で約25万円程度かかります。
- 維持費用: 赤字でも発生する法人住民税(約7万円)に加え、最も大きいのが税理士への顧問料(年間30万円〜)と、社会保険料の会社負担分です。
-
税理士選びの重要性
法人の税務・会計処理は個人事業主とは比較にならないほど複雑です。節税対策や融資相談も含め、信頼できる税理士をパートナーにすることが、法人化成功の鍵となります。 -
一度法人化すると簡単には戻れない
もし事業がうまくいかなくなり廃業する場合でも、法人は解散・清算登記に費用と手間がかかります。その場の勢いではなく、長期的な事業計画に基づいて慎重に判断する必要があります。
まとめ:あなたにとって最適な選択は?
今回のシミュレーションとメリット・デメリットを踏まえ、あなたにとっての最適な選択を考えてみましょう。
【法人化を今すぐ検討すべき人】
- 課税所得が継続的に1000万円を超えている。
- 課税売上高が1000万円を超え、消費税の納税義務が発生するタイミング。
- 大企業との取引や融資など、社会的信用が必要な事業展開を考えている。
【まだ個人事業主のままでも良い人】
- 課税所得が800万円未満で、売上が不安定。
- 事務手続きの負担を増やしたくない。
- まずは事業そのものを軌道に乗せることに集中したい。
最終的な判断は、個々の事業計画やライフプランによって異なります。この記事を参考に、まずは信頼できる税理士を探し、無料相談などを活用して「自分の場合はどうなのか」を具体的にシミュレーションしてもらうことから始めるのが、最も確実な一歩と言えるでしょう。

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