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AWSゼロトラストセキュリティ実践ガイド:境界なきクラウドを守る5つの原則と実装パターン【2025年版】

AWSゼロトラストセキュリティ実践ガイド:境界なきクラウドを守る5つの原則と実装パターン【2025年版】

はじめに:なぜ従来の「城と堀」ではクラウドを守れないのか?

「社内ネットワークは安全、インターネットは危険」。これは、城壁と堀で内外を分ける「境界型防御」と呼ばれる、従来のセキュリティの考え方です。しかし、クラウドとリモートワークが当たり前になった現代において、このモデルは完全に時代遅れとなりました。

  • 境界の曖昧化: アプリケーションはクラウドに分散し、従業員は世界中からアクセスします。もはや「内側」と「外側」の境界線は存在しません。
  • 巧妙化する脅威: 一度内部に侵入を許すと、攻撃者は「信頼された内部ネットワーク」を自由に横移動(ラテラルムーブメント)し、被害を拡大させます。

そこで登場したのが、「決して信頼せず、常に検証する(Never Trust, Always Verify)」を原則とするゼロトラスト・アーキテクチャです。本記事では、AWS環境でこのゼロトラストをどのように実現するのか、2025年現在の最新サービスを交えた5つの基本原則と、明日から使える3つの具体的な実装パターンを徹底解説します。

第1章: AWSにおけるゼロトラストの5大原則

ゼロトラストは単一の製品ではなく、複数のAWSサービスを組み合わせて実現する「思想」です。その根幹をなす5つの原則を理解することから始めましょう。

原則1:アイデンティティこそが新たな境界線である

すべてのアクセスは、強力に認証・認可されたアイデンティティから始まる。

  • 考え方: ネットワークの場所(社内/社外)ではなく、「誰が(What Identity)」アクセスしているのかをセキュリティの基盤とします。
  • 主要AWSサービス:
  • AWS IAM Identity Center (旧AWS SSO): 人(従業員)のアクセスを一元管理。
  • IAM Roles: アプリケーションやAWSサービスのアクセスを管理。
  • MFA (多要素認証): すべてのアイデンティティにMFAを強制。

原則2:ネットワークをマイクロセグメンテーションする

ネットワークを細かく分割し、攻撃者の横方向の移動(ラテラルムーブメント)を封じ込める。

  • 考え方: 万が一、あるサーバーが侵害されても、被害が他のサーバーに波及しないように、小さな区画(セグメント)に分割し、区画間の通信を厳しく制限します。
  • 主要AWSサービス:
  • Amazon VPC: 仮想ネットワークの大きな枠組み。
  • サブネット: VPC内をさらに細かく分割。
  • セキュリティグループ & NACL: インスタンスレベル、サブネットレベルでの通信制御。
  • AWS Verified Access: アプリケーションへのアクセスをVPNなしでセキュアに提供。

原則3:最小権限の原則を徹底する

すべてのアイデンティティには、その瞬間に必要な最小限の権限のみを付与する。

  • 考え方: 管理者であっても、常にすべての権限を持つ必要はありません。必要な時に必要な権限だけを動的に得るべきです。
  • 主要AWSサービス:
  • IAM Policies: 詳細なアクセスポリシーを定義。
  • Permissions Boundaries: ロールが持てる権限の上限を設定。
  • ABAC (属性ベースのアクセス制御): ユーザーの所属部署などの属性に応じてアクセスを制御。
  • 一時的な認証情報 (STS): 短時間のみ有効な認証情報を発行。

原則4:すべてのアクセスを可視化し、継続的に監視する

「誰が」「何を」「いつ」「どこから」行ったのか、すべての操作をログに記録し、リアルタイムで異常を検知する。

  • 考え方: 検証できないものは信頼できません。すべてのAPIコール、ネットワークトラフィックを監視し、ベースラインから逸脱した振る舞いを見つけ出します。
  • 主要AWSサービス:
  • AWS CloudTrail: すべてのAPI操作を記録する監査ログ。
  • Amazon GuardDuty: 機械学習を用いて異常な振る舞いや脅威を自動で検知。
  • AWS Security Hub: 各種セキュリティサービスの警告を一元的に集約・管理。
  • VPC Flow Logs: VPC内のIPトラフィックをキャプチャ。

原則5:インシデント対応を自動化する

検知した脅威に対して、迅速かつ自動的に対応し、被害の拡大を阻止する。

  • 考え方: 人間の手による対応には限界があります。脅威を検知したら、即座にネットワーク隔離や権限剥奪などのアクションを自動で実行する仕組みを構築します。
  • 主要AWSサービス:
  • Amazon EventBridge: セキュリティイベントを検知し、後続処理をキックするイベントバス。
  • AWS Lambda: イベントに応じて、カスタム対応ロジック(コード)を実行。
  • AWS Systems Manager: EC2インスタンスに対するパッチ適用やコマンド実行を自動化。

第2章: 実装パターン1「人のアクセス」をゼロトラスト化する 〜さらばIAMユーザー〜

ゼロトラストの第一歩は、アイデンティティ管理の見直しです。特に、長期間有効な認証情報を持つIAMユーザーは、漏洩のリスクが高く、ゼロトラストの考え方とは相性が良くありません。

解決策:AWS IAM Identity Center (旧AWS SSO) への移行

IAM Identity Centerは、複数のAWSアカウントやビジネスアプリケーションへのアクセスを一元管理するためのサービスです。

なぜIAMユーザーより優れているのか?

比較項目 従来のIAMユーザー IAM Identity Center
認証 アカウントごとにユーザーとパスワードを作成・管理 OktaやAzure ADなど既存のIdPと連携し、SSOを実現
認証情報 長期的なアクセスキーを発行 短時間のみ有効な一時的な認証情報を使用
権限管理 アカウントごとに権限設定が必要で煩雑 組織全体で一元的に権限セットを管理・割り当て
利便性 アカウントごとにログインが必要 一度のログインで全ての許可されたアカウントへアクセス

実装のポイント:
1. IdPとの連携: まずは、OktaやMicrosoft Entra ID (旧Azure AD)など、現在利用しているIDプロバイダーをIAM Identity Centerに接続します。
2. 権限セットの作成: 「開発者」「閲覧者」「管理者」など、職務に応じた権限セット(実体はIAMロール)を作成します。
3. 割り当て: IdPのグループ(例: “Developers”グループ)とAWSアカウント、そして権限セットをマッピングします。これにより、”Developers”グループに所属するユーザーは、指定されたAWSアカウントに「開発者」権限でSSOできるようになります。

IAMユーザーは、CI/CDパイプライン用のサービスアカウントなど、機械的なアクセスに限定し、人間のアクセスはすべてIAM Identity Center経由に移行することが、現代のAWSセキュリティのベストプラクティスです。

第3章: 実装パターン2「アプリへのアクセス」をゼロトラスト化する 〜さらばVPN〜

リモートワークの普及により、社内アプリケーションへのアクセスにVPNを利用する企業は多いですが、VPNには課題もあります。

  • 運用の手間: VPNサーバーの管理や、クライアントソフトウェアの配布・更新が煩雑。
  • 過剰なアクセス許可: 一度VPNに接続すると、本来アクセス不要な他のサーバーにも接続できてしまう「太いトンネル」になりがち。
  • ユーザー体験: 接続に手間がかかり、通信速度が遅くなることがある。

解決策:AWS Verified Access の活用

AWS Verified Accessは、VPNを使わずに、社内アプリケーションへのアクセスをセキュアに提供するサービスです。アプリケーションへのリクエストごとに、ユーザーのアイデンティティとデバイスのセキュリティ状態を検証します。

Verified Accessによるセキュアなアクセスフロー

sequenceDiagram
    participant User as ユーザー
    participant VA as AWS Verified Access
    participant IdP as IDプロバイダー<br>(: IAM Identity Center)
    participant DeviceTrust as デバイス信頼プロバイダー<br>(: CrowdStrike, Jamf)
    participant App as 社内アプリケーション
    User->>VA: アプリケーションにアクセス
    VA->>IdP: ユーザー認証を要求
    IdP-->>VA: 認証OK (ユーザー属性情報)
    VA->>DeviceTrust: デバイス状態を要求
    DeviceTrust-->>VA: 状態OK (OS最新, etc.)
    VA->>VA: アクセスポリシー評価<br>(ユーザー属性とデバイス状態で判断)
    alt ポリシーOK
        VA->>App: アクセスを許可
        App-->>User: アプリケーション表示
    else ポリシーNG
        VA-->>User: アクセスを拒否
    end

実装のポイント:
1. 信頼プロバイダーの統合: IAM Identity CenterやOktaなどのIdPと、CrowdStrikeやJamfなどのデバイス管理ツールをVerified Accessに統合します。
2. アクセスポリシーの作成: Cedar言語を使って、柔軟なアクセスポリシーを定義します。「”Finance”グループに所属し、かつ、OSが最新バージョンのデバイスからのみアクセスを許可する」といった、きめ細かな制御が可能です。
3. アプリケーションのエンドポイント設定: Verified Accessのエンドポイントを作成し、社内アプリケーション(ALBやENI)に関連付けます。

Verified Accessを導入することで、運用負荷の高いVPNから脱却し、よりセキュアで快適なアプリケーションアクセス環境を実現できます。

第4章: 実装パターン3「インシデント対応」をゼロトラスト化する 〜検知から隔離まで完全自動化〜

ゼロトラストの原則5「自動化されたインシデント対応」は、セキュリティ運用の効率と即時性を劇的に向上させます。ここでは、GuardDutyが脅威を検知した際に、自動でEC2インスタンスを隔離するワークフローを構築します。

自動化ワークフロー:
GuardDutyが脅威を検知EventBridgeがイベントをフィルタリングLambdaがEC2のセキュリティグループを変更し隔離SNSがセキュリティチームに通知

実装ステップ

ステップ1: 隔離用のセキュリティグループを作成する
名前: quarantine-sg
インバウンドルール: すべて拒否
アウトバウンドルール: すべて拒否
このセキュリティグループを適用されたインスタンスは、一切の通信ができなくなります。

ステップ2: インシデント対応用のLambda関数を作成する
EC2インスタンスのセキュリティグループを変更し、SNSで通知するPythonコードです。

import boto3
import os
import json
ec2 = boto3.client('ec2')
sns = boto3.client('sns')
QUARANTINE_SG_ID = os.environ['QUARANTINE_SG_ID']
SNS_TOPIC_ARN = os.environ['SNS_TOPIC_ARN']
def lambda_handler(event, context):
# GuardDutyのイベント詳細を取得
finding = event['detail']
instance_id = finding['resource']['instanceDetails']['instanceId']
finding_type = finding['type']
severity = finding['severity']
try:
# インスタンスの現在のSGを取得し、隔離SGに変更
ec2.modify_instance_attribute(
InstanceId=instance_id,
Groups=[QUARANTINE_SG_ID]
)
message = (
f"自動隔離措置を実施しました。\n\n"
f"インスタンスID: {instance_id}\n"
f"脅威タイプ: {finding_type}\n"
f"重要度: {severity}\n\n"
f"詳細はGuardDutyの検出結果を確認してください。"
)
# SNSでセキュリティチームに通知
sns.publish(
TopicArn=SNS_TOPIC_ARN,
Subject=f"[緊急] EC2インスタンスを自動隔離しました: {instance_id}",
Message=message
)
return {
'statusCode': 200,
'body': json.dumps(f"Instance {instance_id} has been quarantined.")
}
except Exception as e:
print(f"Error quarantining instance {instance_id}: {e}")
raise e

ステップ3: EventBridgeルールを作成する
イベントソース: AWS Events or EventBridge Partner Events
イベントパターン:
json
{
"source": ["aws.guardduty"],
"detail-type": ["GuardDuty Finding"],
"detail": {
"severity": [{ "numeric": [">=", 7] }],
"resource": {
"resourceType": ["Instance"]
}
}
}

このパターンは、GuardDutyが検知した重要度7以上(高・クリティカル)で、かつリソースタイプがEC2インスタンスに関するイベントのみをフィルタリングします。

  • ターゲット: ステップ2で作成したLambda関数を指定します。

これで、条件に一致する脅威が検知されると、即座に対象インスタンスがネットワークから隔離され、チームに通知が飛ぶようになります。これにより、攻撃者がさらに内部へ侵入したり、外部と通信したりする時間を一切与えません。

まとめ:ゼロトラストは文化であり、継続的な旅である

AWSにおけるゼロトラストの実装は、特定の製品を導入すれば完了するものではありません。それは、今回紹介した5つの原則を基盤とし、「すべてを疑い、常に検証する」という考え方を組織の文化として根付かせていく、継続的なプロセスです。

  • 人のアクセスはIAM Identity Centerで
  • アプリへのアクセスはVerified Accessで
  • 脅威への対応はEventBridgeとLambdaで自動化

まずはこれらの具体的な実装パターンから着手し、小さな成功を積み重ねていくことが、堅牢なゼロトラスト・セキュリティ体制を構築する上で最も確実な道筋です。このガイドが、あなたの組織を境界なきクラウドの脅威から守るための一助となれば幸いです。

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