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API Gateway vs AppSync:AWSサーバーレスSaaSのAPI設計、2025年の最適解はどっち?

はじめに:APIはSaaSの「顔」。その選択がビジネスの未来を決める

SaaSアプリケーションのバックエンドを構築する際、APIレイヤーの技術選定は、開発効率、パフォーマンス、そして将来の拡張性を左右する極めて重要な意思決定です。AWSのサーバーレス環境において、その選択肢は事実上、Amazon API GatewayAWS AppSyncの二つに集約されます。

しかし、「RESTのAPI Gateway」と「GraphQLのAppSync」は、単なるAPIスタイルの違いではありません。その背後には、解決しようとする課題、得意なユースケース、そして設計思想の根本的な違いが存在します。

  • パートナー企業連携や、シンプルなマイクロサービスの連携にはどちらが向いているのか?
  • 複雑なデータを扱うモダンなフロントエンドや、リアルタイム性が求められるモバイルアプリには?
  • テナントごとの流量制限(スロットリング)といったSaaS特有の要件を、どう実現するのか?

この記事では、これらの問いに明確に答えるため、API GatewayとAppSyncをSaaSという文脈で徹底的に比較・分析します。この記事を読めば、あなたのSaaSに本当に必要なAPIバックエンドがどちらなのか、自信を持って判断できるようになるでしょう。

【徹底比較】API Gateway vs AppSync 機能・思想・コスト

観点 Amazon API Gateway AWS AppSync
APIスタイル REST / HTTP / WebSocket GraphQL
データ取得効率 複数エンドポイントへのリクエストが必要 1リクエストで複数リソースをまとめて取得可能
バックエンド統合 非常に柔軟 (Lambda, Step Functions, HTTP, etc.) データソースに特化 (DynamoDB, Lambda, RDS, etc.)
リアルタイム機能 WebSocket (双方向通信) GraphQL Subscriptions (Pub/Sub)
開発効率(フロント) 低い(バックエンドの変更に影響されやすい) 高い(必要なデータを柔軟に指定可能)
コストモデル リクエスト数、データ転送量 クエリ/ミューテーション数、リアルタイム接続時間

【ユースケース別】あなたのSaaSに最適なのはどっち?

理論的な比較だけでなく、具体的なシナリオでどちらが輝くかを見ていきましょう。

API Gatewayが輝くシナリオ ✨

API Gatewayは、その柔軟性と汎用性から、伝統的なマイクロサービスアーキテクチャや、外部システムとの連携で真価を発揮します。

  • B2B連携SaaS: パートナー企業やサードパーティ開発者向けに、業界標準であるREST APIを提供する必要がある場合に最適です。
  • マイクロサービスバックエンド: 多数の独立したLambda関数やコンテナサービスを、それぞれ個別のエンドポイントとして公開し、疎結合に連携させるアーキテクチャに向いています。
  • シンプルな管理画面: データの取得・更新が単純なCRUD操作が中心で、フロントエンドとバックエンドの連携が密でない場合に、シンプルかつ確実な選択肢となります。

AppSyncが輝くシナリオ 🚀

AppSyncは、フロントエンド開発の効率化複雑なデータ要件への対応に革命をもたらします。

  • リアルタイムコラボレーションツール: チャット機能、共同編集ドキュメント、リアルタイム通知など、GraphQL Subscriptionsを使ったリアルタイムデータ同期が不可欠なアプリケーションに最適です。
  • 多機能ダッシュボード: 複数のデータソース(ユーザー情報、プロジェクト状況、売上データなど)から、ユーザーの役割に応じて必要なデータを過不足なく、たった1回のリクエストで取得したい場合に絶大な効果を発揮します。
  • モバイルアプリ連携: ネットワークが不安定な環境でも、必要なデータだけを取得できるGraphQLの特性と、AppSyncのオフライン同期機能により、快適なユーザー体験を提供できます。

SaaS特有の課題をどう解決するか?

マルチテナントSaaSでは、テナントごとのアクセス制御が必須です。両サービスでの実現方法を見ていきましょう。

テナント別流量制限(スロットリング)

API Gatewayの独壇場です。Usage Plans(使用量プラン)とAPIキーを組み合わせることで、テナントの契約プラン(例: Freeプランは10リクエスト/秒、Proプランは100リクエスト/秒)に応じた、きめ細かな流量制限を簡単に実装できます。これにより、特定テナントによるリソースの独占を防ぎ、サービスの安定性を保ちます。

テナント別アクセス制御

AppSyncでは、GraphQLリゾルバ内でこの制御をエレガントに実装できます。認証を担当するCognitoが発行したJWTには、custom:tenantIdといったテナント識別情報が含まれています。AppSyncリゾルバは、このJWTクレームを読み取り、DynamoDBへのクエリにそのtenantIdを必須条件として含めることで、他のテナントのデータへのアクセスを原理的に不可能にします。これは、アプリケーションレベルでの極めて強力なセキュリティパターンです。

結論:無理に一つに絞る必要はない。「ハイブリッド」という選択肢

API GatewayとAppSyncは、競合するサービスではなく、互いに補完し合う関係にあります。

最も現実的で強力なアーキテクチャは、両者の「いいとこ取り」をするハイブリッドアプローチです。

  • 外部パートナー向けのAPIや、シンプルなマイクロサービスのエンドポイントは、堅牢で汎用的なAPI Gatewayで公開する。
  • 自社で開発するモダンなフロントエンドやモバイルアプリ向けのAPIは、開発効率とパフォーマンスに優れたAppSyncでGraphQL APIとして提供する。

あなたのSaaSがどのような価値を、誰に届けたいのか。その要件を深く見つめ直すことが、最適なAPIレイヤーを設計するための、最も確実な近道となるでしょう。

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